彼女の飼い主がこの農場を訪れたのは2年ほど前。
私に何かあったらこの犬を頼みます、と依頼に来てほどなく、飼い主は 彼女を残して逝ってしまったそうだ。
最初に連れてこられたときから、彼女はどこか臆病でおどおどしていて、 それが裏返って近づく犬や人に威嚇するような犬だった。
今でも急な動きで近づく犬に唸ってみせたり、大きな物音に ビクッと身体をすくめたりする。
前の飼い主が虐待したわけでも、叩いて叱ったわけでもないのに。
どこかで、ボタンのかけ違いがあったのだろう。
彼女は結局スポイルされて育ったのね、と農場主は言う。
そんな彼女に最初は近づくな、と言われた。
ナンがどういう行動に出るかわからなくてキケンだから・・・ という意味ではない。
"私が" どういう人間かまだよくわかっていなかったからだ。
彼女にとって良くない行動に出るかもしれないからだ。
言われたとおり、私はバックヤードで知らん顔して座っていた。
不審者であり侵入者でもある私をじっと伺っていた彼女は、何を思ったのか自分から近 寄ってきた。
そうだよね,本当はみんなと同じように、「あんた誰?」 「どっから来たの?」 って 聞きに来たかったんだよね。
急な動きをするとやっぱりビクッとするんだけど、3日目にやっと友達になれた。
頭をなでても、ブラシをかけても、気持ちよさそうな顔を見せてくれたね。
もちろん羊追いはできるけれど、ハンドラーが迷うとすぐに羊に歯を当ててしまうナン。
少し状況が変わるとすぐに心を閉ざしてしまうナン。
今度会うときまで私を覚えていてくれるだろうか。
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