ミレニアムの年にイギリスのファームを訪問したとき,土地勘の無い私たちは宿もファームの主人に紹介してもらいました.
といっても観光名所でもないひなびた田舎のことですから,近くの宿と言えばそこしかなかったかもしれません.
住宅街の中にある小奇麗で暖かい感じのホテルでした.
そのホテルには一頭の犬が飼われていました.
さすが本場,それがもう何気なくボーダーコリーでした.
名前はトランプ.
ディズニーの "Lady and the Tramp" からとったんだそうです.
黒っぽいラフコートに堂々とした骨格.
すでに10歳を越えていたでしょう,大きな身体の端々から老いがにじみ出ていました.
いろいろと出会いのあった旅でしたが,最初に友達になってくれたのは彼でした.
初対面の挨拶の後,ゆっくり横になってお腹を撫でさせてくれました.
3日目には一緒に芝生の庭に出て木切れで遊んだりもしたっけ.
農場に行ったり観光したりで忙しかった私たちですが,宿に戻ってから彼に会うのが楽しみでした.
廊下や階段の下で大きな影のように佇んでいる彼を見かけると,なぜかホッとするのでした.
ただ,いつも会えるとは限りません.
彼は建物の内外を自由にうろつく特権を得ていたようで,宿の人に居場所を尋ねても 「さあ,2階にでもいるんじゃない?」 といった調子.
そんなときは少しガッカリして部屋に戻りました.
ある時,何気なくホテルのパンフレットを眺めていると,スタッフリストの最後にちゃんと "Tramp" という名前が載ってるのを見つけました.
しかも仕事の欄には 「ゲストと散歩すること」 とあります .
なんと彼は見知らぬゲストと外出するだけでなく,付近の道案内までしているのでした.
う〜ん迂闊,知らぬとはいえそんな方に相手していただいてたとは・・・
あれからもう5年が経ちました.
その間に私たちの生活は大きく変わり,そして今,目の前に水揚げされたカツオみたくビチビチ跳ねる若犬がいます.
それを眺めていて,なぜか彼のことを思い出しました.
3年前にそのホテルを訪問した友人によると,彼はまだ元気にしていたそうです.
もしかしたら今でも,ホテルの中をぶらつきながらゲストの相手をしてるかもしれません.
本当に,そうだったら良いのに・・・
Subscribe to:
Post Comments (Atom)
No comments:
Post a Comment